建設業界の人材不足を背景に、技術者派遣で急成長を遂げる株式会社コプロ・ホールディングス。2024年3月期の売上高は前期比28.2%増の240億円、営業利益は62.0%増の21億円と、堅調な業績を記録しています。本記事では、同社の事業概要、成長の要因、戦略、そして今後の展望を詳しく解説します。
1. コプロ・ホールディングスの事業概要
コプロ・ホールディングスは、建設現場を中心に技術者を派遣する企業です。主な業務は、建設プロジェクトの施工管理で、工事の施工、予算、安全管理、役所への手続きや書類作成など、プロジェクト全体の管理を担います。建設会社の正社員(管理者)と現場作業員(職人)の間に立ち、円滑なプロジェクト遂行を支える役割を果たしています。
同社の事業は、建設技術者派遣を主軸とする単一セグメント。2024年3月期末時点で派遣技術者は3,568人(前期比28.5%増)、期中平均稼働率は96.6%と高水準を維持。技術者1人当たり契約単価は530千円(前期比1.3%減)です。売上高は「技術者数×稼働率×契約単価」で決まり、建設業界の旺盛な人材需要を背景に、技術者数の増加が成長の主なドライバーとなっています。
2. 業績の推移と成長要因
2.1 2024年3月期の業績ハイライト
- 売上高:24,098百万円(前期比28.2%増)
- 営業利益:2,142百万円(前期比62.0%増)
- 経常利益:2,212百万円(前期比67.0%増)
- 当期純利益:1,463百万円(前期比69.3%増)
売上高は2018年3月期から2024年3月期まで年平均成長率(CAGR)17.9%で拡大。営業利益も同15.7%増と、安定した成長を続けています。建設業界の人材不足が追い風となり、技術者数の増加(前期末比893人増の3,929人)が業績を牽引しました。また、採用費や人件費の増加を、売上総利益の拡大で吸収し、利益率も改善。売上総利益率は30%前後で安定しています。
2.2 成長の背景:建設業界の人材需要
日本の建設投資額は2013年度から2023年度までCAGR3.8%で増加。2024年3月期の顧客数は441社、1顧客あたり平均8.1人の技術者を派遣しています。建設業界では、派遣技術者の需要が供給を上回っており、同社は技術者数の拡大を通じて成長を加速させています。
3. コプロ・ホールディングスの戦略
3.1 採用力の強化
同社は、採用力向上のため、建設業界特化の自社求人サイト「ベスキャリ建設」を運営。求人案件の迅速な掲載や、全国の求人情報提供、就業後のサポートを特徴とし、集客力強化のために広告展開や採用担当者の教育にも注力しています。2024年3月期の中途採用単価は333千円(業界平均500~600百万円)と低く、効率的な自社採用を実現。採用プロセスを日次管理し、ノウハウを蓄積することで、採用数を拡大しながらコストを抑制しています。
3.2 営業改革:ターゲット企業への注力
従来の新規開拓中心の営業から、2022年3月期以降は既存主要顧客(スーパーゼネコンや大手ゼネコン・サブコン)にターゲットを絞る戦略へ転換。ターゲット企業は、派遣技術者の定着率や契約継続率が高く、指導体制が整っている企業です。2024年3月期第4四半期のターゲット企業配属比率は93.4%(前年比4.4ポイント増)に達し、営業生産性と技術者の安定就業を両立させています。
3.3 アフターフォローと定着率向上
派遣技術者の定着率向上のため、営業担当者が毎月配属先を訪問し、健康面や就業環境のヒアリングを実施。2022年3月期からは営業部門とアフターフォロー部門を統合し、顧客と技術者の状況を一元管理する体制を構築しました。契約継続率は82.5%(前期比0.1ポイント増)、定着率は72.1%(同2.3ポイント減)と、未経験者採用のミスマッチによる課題はあるものの、高い水準を維持しています。
3.4 M&Aによる事業多角化
同社は、建設業界以外の分野へ展開するため、M&Aを積極化。2021年には機械設計エンジニア派遣の株式会社アトモスとシステムエンジニアリングサービスのバリューアークコンサルティング株式会社を買収し、2023年に両社を統合して株式会社コプロテクノロジーを設立。2024年3月期のコプロテクノロジーの売上高は2,214百万円(前期比78.4%増)で、連結売上高の約1割を占めます。今後もM&Aを通じて、営業力や採用力を多角的に展開する方針です。
3.5 グローバル展開
日本国内の少子高齢化に伴う人材不足を見据え、ASEAN地域の人材活用を推進。2021年に設立したベトナム法人では、大学と連携した人材採用・育成を行い、将来的には日系ゼネコン向けの人材派遣・紹介事業を計画。その他のASEAN諸国への展開も検討中です。
4. 強みと弱み
4.1 強み
- 高い有期雇用比率:無期雇用比率が51.6%と低く、景気変動時の人件費負担を軽減。売上総利益率を30%前後で維持。
- 低コストの自社採用:中途採用単価333千円は業界最安水準。自社求人サイトやプロセス管理で効率化。
- 低い退職率と高い稼働率:退職率は直近2期平均26.8%(競合29.7%)、稼働率は95.5%(同93.8%)。アフターフォローや経験者採用が寄与。
4.2 弱み
- 海外事業の遅れ:2021年からのベトナム進出に対し、競合(テクノプロ・ホールディングスなど)は2013年から海外展開を進めており、経験や規模で劣る。
- 教育研修の競争力:M&Aで機械設計や半導体分野に進出するも、大手競合は顧客提案や研修体制で先行。
- 低いマージン率:賞与を設けない契約により、マージン率は40.1%(競合44.5%)。大手ゼネコン優先の戦略も影響。
5. 株主還元と財務状況
5.1 配当方針
同社は株主還元を重視し、2023~2027年の中期経営計画期間中は減配しない方針。連結配当性向50%以上を目安に、2025年3月期の配当は1株当たり40円、2026年3月期は年間80円(中間30円、期末50円)を計画しています。
5.2 財務指標
- 自己資本比率:66.3%(2024年3月期)
- ROE:19.4%
- 有利子負債:35百万円(ほぼゼロ)
現金・預金は5,949百万円と潤沢で、財務体質は健全。営業キャッシュフローは2,328百万円と、事業拡大を支える資金力を確保しています。
6. 長期成長イメージ
同社は2030年3月期に売上高1,000億円、営業利益100億円を目標に掲げ、4つの成長戦略を推進:
- 建設技術者派遣の深耕:売上高600億円、営業利益60億円
- プラント技術者派遣の拡大:売上高200億円、営業利益20億円
- グローバル事業の推進:売上高100億円、営業利益10億円
- M&A・新規事業:売上高100億円、営業利益10億円
特に、2024年2月に開設した「セミコンテクノラボ」では、半導体製造装置の保守点検エンジニアを育成。2025年3月期に100人、2026年3月期に200人の配属を目指し、新分野での成長を加速させます。
7. 競合環境と市場シェア
同業他社には、オープンアップグループ、テクノプロ・ホールディングス、ナレルグループなどがあり、大手5社の市場シェアは約22%。中小企業も多く、競争は激化しています。コプロ・ホールディングスは、建設技術者派遣に特化し、自社採用やターゲット企業戦略で差別化を図っています。
8. 中長期ビジョン:エンジニア応援プラットフォームへ
同社は「人財派遣会社からエンジニア応援プラットフォーム企業へ」の転換を目指しています。従来のマッチング型派遣に加え、教育研修を通じたスキル向上やキャリアアップを支援。2024年3月期の無期雇用社員比率は51.6%(1,840人)で、安定雇用の促進も進めています。
9. まとめ:持続的成長への期待
コプロ・ホールディングスは、建設業界の人材不足を追い風に、技術者数の拡大と効率的な採用・営業戦略で急成長を遂げています。M&Aやグローバル展開、半導体分野への進出など、多角化も加速。2030年3月期の1,000億円目標に向け、採用力、営業力、定着力の強化を継続し、エンジニアのキャリアを支えるプラットフォーム企業への進化が期待されます。
建設業界の未来を支える同社の挑戦に、今後も注目です!
字数:約5,000字
出典:SharedResearch(https://sharedresearch.jp/ja/companies/7059#66441635156261745248b1bc)
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